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名古屋地方裁判所 昭和34年(ワ)150号 判決 1959年4月14日

原告 川島勇

外二名

右三名訴訟代理人弁護士 下条正夫

被告 岩田銀重

右訴訟代理人弁護士 中根孫一

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和三十四年一月二十八日なした強制執行停止決定(昭和三十年(モ)第一六五号)はこれを取消す。

前項に限り仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

原告等主張の請求原因事実中、第一項、第三項および第四項はいずれも当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証ないし同第五号証を綜合すると、同第二項の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。従つて、本件の事実関係はすべて肯認しうるところであり、問題は、不動産に対する仮差押登記がなされた後第三者が該不動産の譲渡を受けた場合右第三者がその所有権を仮差押債権者に対抗しえない範囲いかんということに帰着する。この点に関する当裁判所の判断は次のとおりである。

仮差押は金銭債権またはこれに換えることのできる債権の執行保全のためになされるものであり、不動産仮差押ももとよりその例外ではない。従つて、仮差押がなされた不動産の価格が被保全債権額をこえる場合でも、仮差押債務者は仮差押命令に表示されたいわゆる解放金額(それは被保全債権額と同額であるのが通例である。)を供託することにより仮差押の執行の停止または取消を求めることができるのである。しかし、不動産の仮差押にあつては、有体動産の仮差押の場合と異なり、仮差押命令中に仮差押の目的となる特定の不動産を表示し、該不動産に対して仮差押をなすべき旨を宣言し、その執行(仮差押登記)も該不動産についてなされるのであるから、仮りに右不動産の価格が該仮差押命令における被保全債権額をこえる場合であつても、右仮差押の執行の効力は右不動産の全部について及ぶと考えるべきであり、従つて、その後において右不動産の譲渡を受けた第三者は、被保全債権額のいかんにかかわらず、右不動産の全部について、その所有権を仮差押債権者に対抗しえないものと解するのを相当とする。原告等は、仮差押が金銭債権の執行保全のためのものであることからして、右の場合仮差押の効力は被保全債権額の限度においてのみ存し、その余には及ばず、従つて仮差押執行後に不動産の譲渡を受けた第三者がその所有権を仮差押債権者に対抗しえない範囲も右被保全債権額の限度にとどまると主張するが、仮差押が金銭債権の執行保全のためのものであることは所論のとおりであるとしても、不動産仮差押命令に特定の不動産を表示し、かつこれについて仮差押の執行がなされている以上、該仮差押の執行の効力はその不動産の全部にわたつて及ぶと解せざるを得ず、またかように解したからといつて、債務者は仮差押の存続中いつでも解放金額を供託して右執行の取消を求めうるのであつて、右仮差押が執行保全たる性質をもつものであることには変りがないから原告等の右の見解には左袒し難い。

これを本件について見るに、原告等はいずれも別紙目録記載の不動産に対する仮差押登記後にその所有権を取得したものであるから、これをもつてその全部につき仮差押債権者たる被告に対抗することができない。従つて、被告は訴外前川に対する仮差押命令表示の請求金額およびその他の債権額の支払を命ずる債務名義に基き右不動産に対し強制執行をなすを何等妨げられないものであり、原告等においてその執行の排除を求めうべき限りではない。(なお、原告等は仮差押債権額全部を供託したことにより仮差押債権全部を消滅せしめたので被告のなした仮差押登記は取り消されるべきであると主張するが原告等の右供託は仮差押が本執行に移行した後になされたものであるから、もはや仮差押の執行を取り消す余地はなく、また原告等の別紙目録記載の不動産に対する所有権の取得は前記の如くもともと被告には対抗しえないものであるから、右供託によりこれを被告に対抗しうるに至つたものとも認められない。)

よつて、別紙目録記載の不動産につき所有権を有することを前提とする原告等の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、強制執行停止決定の取消およびこれが仮執行の宣言につき同法第五百四十九条第四項、第五百四十八条第一、二項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大内恒夫)

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